期待の新人監督2020オンライン
授賞結果発表

期待の新人監督賞
(グランプリ)

保谷聖耀監督
『クールなお兄さんはなぜ公園で泥山を作らないのか』

保谷聖耀

保谷監督のコメント

「監督の保谷です。まず、グランプリをいただけてすごく嬉しいです。ありがとうございます。この映画は凄く尺が長いですし、制作の現場でもスタッフの数も少なくて、少人数の規模で作っていたものが、こうやって大きいコンペで入賞することが出来てすごく嬉しいです。ありがとうございます。」

期待の新人俳優賞

有雪さん(主演)
『そして私はパンダやシマウマに色を塗るのだ。』

有雪

有雪さんのコメント

「自分がいただけるとは全く思っていなかったので、本当に驚いています。監督をはじめ、この作品に関わってくださった全てのキャストの皆さんやスタッフの皆さん、全ての関係者の皆さんに感謝しています。本当にありがとうございます。」

審査員からの総評

田野辺尚人田野辺尚人

期待の新人監督」を開始して、今年は一番ハードなものになっていると思います。 今回のグランプリ作品『クールなお兄さんはなぜ公園で泥山を作らないのか』にしましても、3時間弱の長編で、もしこれが、例えばスクリーンで上映されるような形であるならば、違う結果が出た可能性も十分にあると思います。

全てが、今のコロナが蔓延している中で映画祭をやる、そこで新人監督を発掘するというところで、あくまで「期待の新人監督」ですから、そこのところで今回選考した人達の期待に応じた作品を作ってもらえればと切に思います。

加えまして、来年も状況が良くなれば、新しい「期待の新人監督」の作品を募集することになると思いますけれども、今から言っておきますが「リモート映画」を持ってきても絶対に通用しない。やる気のある人間は、この逆境の中でもうちゃんと映画を作り始めている状況がありますので、来年以降の動向も、ぜひ皆さんにご注目いただければと思っています。よろしくお願いします。 残り三本も、そういう意味ではギリギリのところで食いついてきた映画であります。

『そして私はパンダやシマウマに色を塗るのだ。』の色を付け足していくという、30数分の作品の面白さ。『東京の古着屋』の平和ボケしている云々という苛立ちが、最後に暴力に転じていく過程。『濡れたカナリアたち』のピンク映画 への敬愛。『濡れたカナリアたち』に関しましても、審査をやっていく上で、かなり話題には上がりました。今、ピンク映画のOP映画社が若い監督の作品を募集して作らせていますから、そこへどんどん応募すればいい。カナザワ映画祭は寄り道です。 映画会社に行ってください。そういう風なことも思いました。従って、今回4本とも緊張感を持って制作に臨んでいることが、こうやって今日、皆さんにお届けした大きな要因だと思います。緊張感がない映画は、これから先駄目です。死んで行きます。そういう意味で、170分位ある長い映画が生き残ったのは、要らないシーンでも緊張感があった。そこの良さというものは、強く残っています。

坪井篤史坪井篤史

4作品を観させて頂きまして、田野辺さんが仰ったとおり、非常に画の緊張感や技術的な高さというのは、全て皆さん高いとは思うのですね。 一つ苦言ではないのですが、まず今回「期待の新人監督賞」を受賞された保谷監督の作品について、興行という目でお話しをさせていただければと思います。 やっぱりですねどうしても、この作品を劇場でかけた場合、ある種の観客からの(監督が受ける)恐怖感というのを、監督には一度味わって頂きたいなというのは思ったところなんです。やっぱり映画って、観客に観ていただいて完成するという部分が非常に高いと思うんですよね。

監督が撮られた『クールなお兄さんはなぜ公園で泥山を作らないのか』は、作品自体が悪いということではなくて、上映時間が長いということではなくて、それが監督の自信につながって、この作品が出来たと思っているところがあるのと、主役の彼の眼差しだったりというところは非常に面白かったので、時間的には長いとは感じてはしまうのですが、面白いシーンが沢山あるので観れたのは観れたんですね。 ただ、スクリーンで観客の前で上映するという、ある種の恐怖感というのは、監督にとっては経験していただきたいなということではあるので、今回、次の新作を撮れるという機会ができたと思います。その際には、特集上映の中の一本でもいいので、この作品をスクリーンでかけていただいて、この作品のためにお金を払って皆様からの感想を直接受けるのが、また監督の成長にも繋がるかなと思いましたので、保谷監督も頑張って、次の新作を楽しみにしていますので、よろしくお願いいたします。

個人的には『濡れたカナリアたち』は、先ほど田野辺さんも仰った通りなのですが、4本の中では劇場向けの作品だと思います。何か次の作品が撮れるのであれば、すぐに劇場に持って来て頂いた方が良いと思います。それこそ、先ほどの映画会社のOPさんの話じゃないですけれども、観客に観せるという作業を一刻も早くした方が良い作品なのが、興行者の目でみると『濡れたカナリアたち』は非常に印象深い作品です。お客様に、ある種ある程度のトラウマ的なショックを残す映画だと思いますので、次作は観客に対して公開していくという行為をしていただければと思います。

『東京の古着屋』は面白かったのは面白かったけれど、もう一歩いけるといいなというところがあったので、監督さんはお若いと思うのですが、作品の中に監督の若さの視点がもう一個ぐらい入っていると、女優さんも非常に良かったので、面白い作品になるんじゃないかなと思います。ぜひ、次にまた期待したいなと思っています。

最後に、有雪さんおめでとうございます。非常に面白い映画だったと思うのですが、どうしても短編となると時間が短いのが我々にとって、有雪さんがいいなと思ったとしても、1時間観たいなと思っても1時間内では終わってしまうので、もし次回、同じ監督さんとのコンビで撮れるのであれば、是非長編にチャレンジしてください。実は、シネマスコーレの「シックスセンス2020」という企画の中で『そして私はパンダやシマウマに色を塗るのだ。』が上映されますが、今度は観客の人も観てくれるので、その時には観客の匂いや意見の方を参考にしていただいて、作品に繋げていただければと思います。 4本とも魅力的な作品ではあったのですけれども、それぞれプラスもマイナスもあって非常に面白かった4本かと思います。

森義隆森義隆

クールなお兄さんはなぜ公園で泥山を作らないのか』は、一つ独自性ということと非常に自由な気持ちで映画を撮っているという点で、評価をして押しました。彼が、次にどういう作品を撮るのかは全く想像がつきません。京都大学の方なので、俳優の演出、どういう仲間達とどういう映画をこれから撮っていきたいのかということは、しっかり自分中で煮詰めていかないと、この「期待の新人監督」ということに関して、覚悟を持って挑んで欲しいなと思います。

『濡れたカナリアたち』も高く評価をしていて、演出という意味合いでは、4本の中で一番、一個一個のショットに強い意志を感じました。それが、ピンク映画へのオマージュから来ているものだとしても、自覚的にワンカットワンカット積み上げているという点においては、また坪井さんとは違う観点ですけれども高く評価しました。ただ、ちょっと脚本が弱い。”カナリア”という要素が本当にこの映画にとって重要だったのか。”カナリア”という要素が抜けた時に、どういう物語が一体あの中に残っているのかという中で、もう少し脚本を深く掘ったものを観てみたい。もしくは、大阪芸大の方ですから、自分の演出力を使って、自分とは違う感性の脚本家を使ってみるという手もあるのかなという気持ちで観ました。

『東京の古着屋』は、技術という点においては、今回突出していたんじゃないかなと。 音楽のサンプリングであったり、ロングショットとクローズアップのリズム感だったり、冒頭の10分にすごく引き込まれて、ここからどう展開していくのかなと期待したのですが、そこからのショットの積み上げが、どこかちょっと記号的というか、映画らしい映画を作ろうというところに留まってしまって、もう一つ監督が持っているこの作品にかけるパッションみたいなものや、世の中に対する強い視座とか怒りというのが技術を通して伝わってこなかったかなと。そこが惜しいところだったと思います。

『そして私はパンダやシマウマに色を塗るのだ。』に関しては、今回の4作品の中で、主演の有雪さんが「新人俳優賞」となりましたが、作品も技術がしっかりしていて、監督がはっきりとした狙いをもって撮れている。パートカラーという技術が感情表現に繋がっていくという作品の中で、最初は多分感情を排した凄くロジカルな芝居をしていて、だんだん途中で色が抜けた後にそのパートカラーが感情を表現していくところまでずっと感情を抑制して、最後の雨のシーンで、とても生っぽいというか、とても人間らしい芝居を最後にばっと表現されるという計算されたお芝居が、監督とのコミュニケーションの中でしっかりと出来ていたという点を高く評価しました。おめでとうございます。

細川博史細川博史

この度は皆さんおめでとうございます。スカラシップについてお話しさせていただくと、後ろのボードにオレンジ色のロゴで”EST1632 TATEMACHI ST.”と書いてあるのですが、竪町商店街は1632年、約400年程前に1件目のお店ができてからずっと、若い人たちが自分たちのビジネスを起こすということをやって発展してきたという歴史を持っています。隣の人が起業をしてお店を出した時に、周りの人がみんなで支えながら若い人たちが世に羽ばたいていくのを応援するということをやってきた中で、去年から「カナザワ映画祭」と連携して、一緒になって若い人たちを応援するというメッセージが重なることから、スカラシップ制度というものを設立させていただきました。

竪町商店街が行ってきた若い人たちを応援するというメッセージが、「カナザワ映画祭」「タテマチ屋上映画祭」という映画祭を通じて、世界中に発信されるといいなと思っていますので、これから上映される作品、それからこれからまた制作される作品、どちらも良いものになるといいなって思っています。